皮膚には「バリア機能」があります。皮膚のバリア機能とは、「紫外線や乾燥などの刺激や雑菌などの侵入から身体を守ったり、体内の水分や熱が失われていくことを防いだりする働き」のことを指します。身体は皮膚のバリア機能によって保護されています。
皮膚のバリア機能の低下は、アトピーの悪化と深く関係しています。バリア機能が低下すると、皮膚は外気に対して無防備な状態になります。すると皮膚は外からの刺激や雑菌などの異物をはね返しにくくなり、炎症が起きやすくなります。その結果、湿疹やかゆみなどの症状を引き起こし、アトピーが悪化してしまうのです。
アトピーを悪化させないためには、皮膚のバリア機能を低下させないことがとても大切です。
ここでは「皮膚のバリア機能のしくみ」について解説したあと、「皮膚を守るバリア機能が低下してしまう理由」を5つ紹介します。
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皮膚のバリア機能のしくみ
皮膚は肌の表面から順に「表皮(ひょうひ)」「真皮(しんぴ)」「皮下組織(ひかそしき)」の3つの層からできています。
表皮は「皮膚のバリア機能」に最も関係が深く、外部からの刺激(紫外線、乾燥、暑さ、寒さなど)や異物の侵入(化学物質、細菌、ウィルスなど)を防ぎ、身体を守る役割をもっています。
このうち表皮の一番外側にある「角層(角質層:かくしつそう)」にはバリア機能が備わっていて、外界に対して90%以上は、この角質層の働きによって保護されています。
健康な皮膚であれば、紫外線、化学物質、細菌などの刺激を外部から受けても、皮膚のバリア機能がしっかりと働いてくれるため、はね返すことができます。
ところが皮膚のバリア機能が低下すると、外部からの刺激を受けたとき刺激や異物をはね返すことができなくなり、炎症が起こります。そしてアトピーの症状である、湿疹やかゆみを引き起こします。
また、かゆみが起きたときに皮膚をかいてしまうと、さらに皮膚を傷つけることになります。そしてバリア機能はますます低下します。さらにバリア機能の低下が、アトピーをより悪化させてしまうという、悪循環につながってしまうのです。
ここからは、皮膚のバリア機能が低下してしまう理由について紹介します。
皮膚の「保湿力」低下
皮膚の「保湿力」が低下すると、皮膚の防御機能は低下します。
保湿力は皮膚の内部に水分を保ち、皮膚をしっとりさせて弾力をもたせる力です。そのため保湿力が低下すると、皮膚は乾燥しやすくなります。
そして皮膚が乾燥すると、皮膚の最も外側にある角質層がはがれてしまい、ひび割れを起こしやすくなります。
角質層は0.02mm(食品用のラップ1枚ほど)の薄さでありながら、この中には10~20層の細胞(角質細胞)が重なっていて皮膚の水分を保っています。水分が十分に保たれた角質層はとても強く、紫外線などの外部の刺激やウィルスなどの異物の侵入をはね返すことができます。角質層は皮膚を健康に保つために欠かせない、大切なバリア機能をもっているのです。
ところが皮膚が乾燥すると、重なっている角質細胞の間にすき間ができてしまいます。たとえて言うと、「乾燥した地面」に似ています。乾燥した皮膚は「水分がなくなった地面にひびが入り、土がめくれてしまったような状態」なのです。
角質細胞にすき間ができると、皮膚の内部にある水分はすき間を通って外へ抜けやすくなります。そのため皮膚はますます乾燥して、角質細胞のすき間はさらに広がってしまいます。
こうして角質細胞のすき間がどんどん拡がってしまうと、角質層は外からの刺激や異物の侵入をはね返すことができなくなり、防御機能はますます低下してしまいます。
そのため皮膚のバリア機能を低下させないように、「保湿力を高めること」が必要です。
保湿力を高める方法のひとつとして、「保湿剤や入浴剤の使用」が挙げられます。しかしこれらを使った身体の外からのケアだけでは、皮膚を十分に保湿することができません。バランスの良い食事をとり、適切に水分補給をすることで、身体の中から保湿力を上げることができます。
皮膚の洗いすぎ
「お風呂で皮膚を洗いすぎること」も、バリア機能の低下につながります。皮膚を守るために必要な「皮脂膜」や「皮膚の表面にある良い菌(皮膚常在菌)」が洗い流されて、バリア機能が低下してしまうからです。
皮脂膜は皮膚の表面にある天然の保護膜で、乾燥や紫外線など外部からの刺激や雑菌などの侵入を防いでくれています。
一方、皮膚常在菌は皮膚に住み着いている細菌です。皮膚の表面にバリアを作り、病原菌などが外部から侵入してくるのを防いでいることから「肌の善玉菌」として注目されています。
アトピーの場合、皮膚がもともと持っているこうした防御機能を失ってしまうのは、避ける必要があります。そのため皮脂膜や菌を失わないように、身体を洗いすぎないことが大切です。
実際2000年の初めごろから医師の間で、「洗いすぎないスキンケア」という考え方が広がり始めました。米国皮膚科学会(AAD)という団体は、アトピー性皮膚炎の患者に対して「石けんやボディソープは本当に必要なときだけ使うべき」とするスキンケアの方法を発表しています。
たとえばお風呂やシャワーで体を洗うとき、ナイロンタオルにボディソープをつけてゴシゴシ洗うなどは絶対に避けるべきです。アトピーの人はボディソープを避けて、「天然成分や無添加の石けん」を使うと良いです。
またナイロンタオルを使うと皮膚の角質がはがれやすく、皮膚の乾燥とアトピー悪化の原因になります。ナイロンタオルを使うだけでも皮膚を傷めるおそれがあるうえに、ボディソープを使ったとしたら、皮膚へのダメージは非常に大きくなってしまいます。
お風呂やシャワーに入るときにはナイロンタオルを避けて、代わりに柔らかいタオルを使うか、手で洗うようにしましょう。最近は「ガーゼタイプの手ぬぐい」もあります。できるだけ皮膚を傷つけにくい素材のタオルまたは手ぬぐいを使うことをおすすめします。
栄養バランスの崩れ
栄養バランスの崩れは身体の「皮膚を外気から守る機能」の低下を引き起こして、アトピーの悪化につながります。
たとえば脂肪をたくさんとりすぎると「皮膚から水分が抜けやすくなる」、「皮膚の血管が生まれ変わりにくくなる」、「皮膚の弾力を保つコラーゲンをためる力が弱まる」、「傷の治りが遅くなる」などのことが東京農業大学の研究結果から分かっています。つまり、脂肪のとりすぎは、皮膚を弱くして、傷つきやすくしてしまうのです。
脂分の多い食事の例としては、脂身の多い肉、揚げ物、乳製品、油を使ったドレッシング、マヨネーズ、アイスクリーム、ケーキ類などが挙げられます。
甲子園 栗木皮膚科クリニックによる血液検査の結果では、アトピー性皮膚炎になる人の特徴として「低タンパク、鉄欠乏、亜鉛不足、ビタミンA不足、ビタミンB群不足の傾向がある」と報告しています。
栄養バランスが崩れると、皮膚の健康を保つことが難しくなり、アトピーの悪化につながります。皮膚のバリア機能を高めてアトピーを悪化させないためには、日ごろの食生活に気をつけて、バランスのとれた栄養をとることが大切です。
乾燥
自宅や職場など、エアコンを使用している環境で過ごす時間が長いと、皮膚の状態が悪くなりやすいです。空気が乾いていることで皮膚も乾燥しやすくなります。皮膚の乾燥は上で紹介したように、バリア機能の低下につながります。
最近はさまざまなところでエアコンが使われるようになりました。完全にエアコンをつかわないようにして乾燥を防ぐことは難しいです。ただ、加湿器を使ったり濡れタオルを置いたりすることで、湿度を保つ工夫をすることは大切です。
また、こまめに水分補給をすることによる「身体の中からの乾燥対策」も、皮膚を守るために心がけるとよいでしょう。
スギ花粉
「スギ花粉」は皮膚のバリア機能を低下させることが、科学技術振興機構と大手化粧品企業による研究結果によって分かっています。
スギ花粉が皮膚に付着すると、皮膚から失われる水分の量が多くなります。その結果、肌は乾燥しやすくなり、皮膚の防御機能の低下につながります。
健康な人であればスギ花粉が皮膚に付着しても、バリア機能は一時的に低下するだけで回復します。しかしアトピーの人はバリア機能が回復しにくく、スギ花粉が皮膚に触れないようにすることが大切です。
スギ花粉から肌を守るには、花粉が多く飛ぶ日は外出を控えたり、外出するときにはメガネやマスクを身につけたりしましょう。また「帰宅して玄関に入る前に衣服を払う」、「洗顔やうがいをする」などを習慣づけることも大切です。
まとめ
ここでは皮膚がもつバリア機能のしくみと、その機能が低下する理由について紹介してきました。
皮膚のバリア機能を低下させないためには、次のことが大切です。
- 保湿剤や入浴剤を使う。
- バランスのとれた食事と適切な水分補給を心がける。
- ナイロンタオルや化学成分の石けんやボディソープの使用を避ける。
- 加湿器や濡れタオルを使い、乾燥対策をする。
- スギ花粉が皮膚に付着しないようにする。
以上の取り組みが大切です。
皮膚のバリア機能を低下させないために、これらのことを生活に取り入れてみてください。